2011年11月〔阿部 哲夫/産業医学担当特別相談員〕
近年、日本に限らず世界の社会構造の変化は急激で混沌とした状況になっています。終身雇用制度は遅れたシステムとして除かれ、派遣社員が最先端の働き方であるかのような働き方が主流となってきました。1つの会社で働くことを通して知識や技術を学び社会に貢献していくという伝統はもはや失われてしまったようです。このような産業構造の変化に伴い、就労形態雇用形態が変化し産業衛生における健康問題もその時期、その時期で新しい対応が求められてきました。
戦後の高度経済成長期にその高度成長のひずみが顕在化し公害問題に代表される健康問題が社会問題となっていました。労働災害及び職業病の減少をめざし、昭和47年には労働安全衛生法が施行されました。以来平成20年には労働災害による死亡者数は1200人台に減少しいわゆる古典的な労働災害や職業病は減少し産業保健の場においては解決済みのような感がありますが、実はそんなことはないと思います。
その後、第3次産業の就業者数が半数に増加する頃には産業保健の対処の対象が健康づくりに移行していきます。昭和63年にはTHP=心と体の健康づくりが策定されました。近年では職場の環境や労働形態就労形態などが急速に変化しており、働く人の高齢化も著しく進んでいます。職場不適応や過剰な作業負荷によるストレスでメンタル障害を感じる方や何らかの健康上の所見のある方、非正規社員の健康問題が増加するなど状況の中で、職場の健康管理は過重労働やメンタルヘルス対策への対応や取り組みが強く求められるようになっています。職場にも特定健康診などの導入が求められいわゆる生活習慣病予防の観点からハイリスク者への積極介入が行われています。
職業病の原因となる有害要因の管理についても従来の労働衛生の3管理の管理方法からリスクアセスメント手法を用いた労働安全衛生マネジメントシステムが導入され実効を挙げてきています。
このような状況の産業衛生の分野で産業歯科保健の果たすべき役割も重要になってきています
職業に起因する歯科疾患は多様で産業衛生に携わっている方々の認識度も少ないようです。特定化学物質障害予防規則の作業主任者技能講習の教科書の中には労働環境における有害要因と歯科領域の症状が記載されています。歯牙酸蝕症は代表的な職業性歯科疾患で6か月に1度の特殊健診が義務づけられています。現状は典型的な歯牙酸蝕症は見られなくなっていますが疑問型は多いようです、酸蝕職場が全国でどのぐらいの事業所数がありどのぐらい酸の特殊健診が行われているかも不明です。
THPでは初めて産業保健の中に口腔保健が取り上げられ保健指導で歯科衛生士の活用が示されています。少しずつではありますが事業場での口腔保健活動が進み始めました。健康の保持、増進には日常の生活習慣を改善しそれを保持することがなりよりも重要です。
現在口腔と全身の健康の関与に関する意識が高まり、歯科保健衛生が全身の健康に深くかかわっていることの認識が深まってきています。
1日の1/3を過ごす職場はそのまま生活の場であること、未曽有の高齢化社会を迎えること等を考えると青壮年期=職場で過ごす時期の産業歯科衛生の推進は大変重要と考えます。職業生活を健康で過ごし、さらに職業生活をリタイアした後の長い人生を健康かつ快適に過ごす為には、口腔保健を取り入れた心と体の健康づくり、口腔保健が全身の健康に及ぼす影響などを考慮した産業保健が必要で、職場における産業歯科衛生への取り組みがきわめて重要であると考えます。

















